大判例

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東京高等裁判所 昭和45年(う)2594号 判決

被告人 佐藤明吉

〔抄 録〕

所論は、被告人が当時甚しく酒に酔い、自動車を運転していたため、公訴事実第二、第三については大石春義が自転車に乗つて対面進行してくるのを全く気付かず、これに自車を衝突させたことも知らなかつたのであり、救護を必要とする傷害を負わせたことを知らなかつたし、公訴事実第五、第六については上杉国広が自転車に乗り同方向に進行中であつたことに全く気付かず、これに自車を衝突させたことも知らなかつたのであり、報告を必要とする交通事故が生じたことを知らなかつたから、これら事故の発生を知つていたことを前提とする公訴事実を認めた原判決は事実を誤認したものであるというのである。

記録ならびに当審における事実取調の結果によれば、被告人は昭和四四年八月二八日夜、歌志内市の自宅で不快の気分を紛らそうとして平素の酒量以上にビールおよび日本酒を飲み、かねて依頼されていたとおり砂川市内のバーからホステスの小林みちおよび姉佐藤悦子を歌志内市内まで送り届けるため普通乗用自動車の運転をはじめたのであるが、運転中次第に酒の酔いが加わつて前方注視、ブレーキ、ハンドルの操作が困難となつたのにかかわらず運転を継続し、右小林みちを同乗させて砂川市内より歌志内市に向う途中、上砂川町鶉六二番地先に差しかかつたときには、意識が朦朧としており、前記大石春義の自転車にも気付かず、またこれと接触したことにも気付かなかつたものと認められ、小林みちを歌志内市で降ろした後、同じ道路を再度砂川市に向い、砂川市内で姉の佐藤悦子を乗せ再び歌志内市に向つたときも、同様に意識朦朧の状態であつて、前記上杉国広の自転車に気付かず、またこれと接触したことにも気付かなかつたものと認められる。このことは被告人が原審公判廷で供述し、当審においても供述しているところであつて、その供述が作為に出たものとは認められない。被告人は本件第二の事故(公訴事実第五)当日司法警察員の取調を受け、第一の事故(公訴事実第二)については左方から鳥のような黒い物が来たように思つて右に転把したとき、左前フエンダー附近にボールが当つたような音がしたが気味が悪いので停めなかつたといい、第二の事故については自転車を追い越そうとしていたら、ふつと自転車が見えなくなつてガリガリと音がしたが、自転車に当つたのか、ガードレールに当つたのか確認するのが恐ろしかつたので停めなかつたといい、八月三〇日付の司法警察員に対する供述調書では第一事故については略々同じで、第二事故については自転車にぶつかつたと思つた旨述べ、九月一日付の司法警察員に対する供述調書では第一事故について、自転車を発見したとき道路の右側に寄り過ぎていたので、ハンドルを左に切つたが後部右側でボンと音がした、左方から黒い物が出たというのは嘘である旨供述している。更に同年一一月一四日付の検察官に対する供述調書では第一事故について、左方から黒い物が飛んできたのでハンドルを右に切つたところで自転車に乗つた人を見付けたが、これに衝突したので乗つていた人が死んだか重傷を負つたかと思いこわくて逃げたといい、第二事故についても、自転車を見付けたがそれと併進していたダンプ車との間を通り抜けようとして自転車に衝突したので乗つていた人が死んだかもしれないと思つて夢中で逃げた旨供述しているところである。しかしながら被告人は第二事故を発生させた後姉悦子をその自宅に送り届け、附近の被告人宅に帰り着き車庫に車を入れてシヤツターを下ろさず左のウインカーを点滅させたまま車中で眠つていたところを轢逃げ犯人の捜査のため逐次道路沿いに調査をつづけて来た警察官笹森唯志に発見されているのであつて、仮に被告人が第一事故について司法警察員に対する第三回供述調書、検察官に対する供述調書にあるように自己の過失により事故を発生させ、しかもそれが重大事故であると知つていたとすれば、短時間後事故地点を再び引き返してくることは理解し難いし、第二事故について、司法警察員に対する第二回供述調書、検察官に対する供述調書にあるように、自己の過失により重大事故を発生させ逃走したのであれば、当然捜査の手が及ぶと考えられる場所に左ウインカーを点滅させたまま車庫のシヤツターを下ろさず、車内で眠つていたというのもまた理解し難い。このような点から考えると、被告人は原審公判廷および当公判廷で述べているように、意識朦朧として運転していたため二回に亘り事故を発生させたことを知らずに運転していたものと認めるのが相当であり、捜査官に対する供述調書はいくつかの矛盾点を含むことを別としても理詰めで供述させた嫌いがあつて措信できないものがある。従つて原判決が判示第二、第五事実(公訴事実第二、第五)中大石春義、上杉国広の各自転車を、至近距離においてはじめて認めたが正しく運転をなさずして何れも自車を衝突させた旨認定し、判示第三事実(公訴事実第三)として救護義務を尽さずに逃走したことを、同第六事実(同第六)として最寄りの警察官に報告しなかつたことをそれぞれ認定したのは事実の誤認があるといわなければならないし、これらの誤認は判決に影響することが明らかである。なお職権で調査すると原判決は、右第一の事故を惹き起した判示第一の酒酔い運転と、右第二の事故を惹き起した判示第四の酒酔い運転とを二個の罪とし、これらと原判示第二、第五の各業務上過失傷害罪とを併合罪として刑を加重しているのであるが、これら酒酔い運転は継続犯として一個の犯罪と認めるべきであり、また業務上過失傷害罪の注意義務違反は前に説示したように運転中止義務違反のみを内容とするものであるから、それぞれの酒酔い運転とは一個の行為により数個の罪名に触れる関係にあり、結局これら全犯罪が刑法第五四条第一項前段の観念的競合になると解すべきであるから、これらを併合罪として刑の加重をした原判決は法令の適用を誤つたことになり、この点においても破棄を免れない。論旨は理由がある。

(津田 青柳 菅間)

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